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くま弁だより

熊弁の意見

「犯罪被害者等による少年審判の傍聴」に関する会長声明

熊本県弁護士会 会長  三藤省三
1 法務省は,本年11月29日,法制審議会に対し,「犯罪被害者等による少年審判の傍聴」を主要な内容とする少年法「改正」要綱(骨子)(以下,「改正要綱」という。)を諮問した。また,法務省は,改正要綱に対するパブリック・コメントを募集している。
そこで,「犯罪被害者等による少年審判の傍聴」に関する当会の意見を表明する。
2 そもそも,少年法は,少年の可塑性に鑑み,少年の健全育成を目的とし,保護・教育の優先をうたっている(少年法1条)のであるから,犯罪被害者等の少年審判への関与を検討するにあたっては慎重な検討を必要とする。
3 犯罪被害者等による少年審判の傍聴を認めるべきとする論拠として,①犯罪被害者側の「知る権利」の実現,②刑事訴訟手続で傍聴が認められていること,③事実認定を適正に行うことが主にあげられる。
しかし,②犯罪被害者側の「知る権利」は,2000年の法「改正」によって認められた審判開始決定後の記録の閲覧・謄写,意見の聴取,審判結果の通知等の制度の活用によって十分実現できるはずである。また,②刑事訴訟手続で傍聴が認められていたとしても,少年法は刑事訴訟法と目的を異にするのであるから,直ちに傍聴を認めることにはならない。さらに,③事実認定の適正化についても,犯罪被害者が審判を傍聴することで少年が萎縮して事実を主張できなくなる危険があることを考慮すれば,犯罪被害者の傍聴が事実認定の適正化に結びつくとまでは言いきれない。
それどころか,犯罪被害者等の傍聴を認めることには,次のような問題点がある。
(1) 少年が萎縮してしまうこと
 少年は,成長発達の途上にあり,精神的に未成熟であり,特に少年審判が事件発生から間もない期間に進められるため,犯罪被害者等が少年審判を傍聴すると,少年が精神的に萎縮し,審判廷で率直に心情を語ったり,事実関係について発言することができなくなるおそれがある。
これにより,少年の弁解を封じ込めて,誤った事実認定をするおそれが生じてしまう。
(2) プライバシーに関する事項を取り上げることが困難になること
 被害者等が傍聴している状況において,裁判官や調査官等が,少年の生育歴や家族関係の問題といったプライバシーに深く関わる事項を取り上げることが困難化するおそれがある。
かかる事項を取り上げずに少年審判を行えば,少年審判の内容が表面的に現れた事情だけに基づく形式的なものになりかねない。
(3) 少年審判のケースワーク機能が減退すること
 少年審判は,少年の未成熟さを考慮し,少年の心身の状況に最も相応しい対応をするべく,少年への責任追及のみを中心とするのではなく,少年みずからが問題を解決できるように援助するというケースワーク機能を有している。
しかし,犯罪被害者等が少年審判を傍聴するのであれば,裁判所としては少年の責任追及を中心とした手続を進行せざるを得なくなり,少年審判のケースワーク機能が減退してしまう。
(4) 保安上の問題等が生じること
一般に少年審判法廷は,刑事裁判法廷と異なり,非常に狭く,傍聴席もおかれていない。このため,犯罪被害者等が少年審判を傍聴するのであれば,犯罪被害者等と少年の距離は極めて近くならざるを得ない。
特に,事件発生から間もない期間に少年審判が行われることを考慮すれば,犯罪被害者等と少年はお互いに極めて緊張感の高い状況となり,保安上の不安も生じる。
 このように,犯罪被害者等による少年審判の傍聴には,さまざまな問題点がある。また,少年の内省を深めるために犯罪被害者等がいる場で少年審判を受ける必要があるのであれば,現行の少年審判規則29条に基づいて,犯罪被害者等を少年審判に在廷させることで十分である。
 したがって,犯罪被害者等による少年審判の傍聴については,少年審判規則29条が認める範囲で犯罪被害者等が少年審判に在廷すれば十分であり,それ以上の規定を設けるべきではない。 
4 よって,当会は,犯罪被害者等による少年審判の傍聴については,少年審判規則29条が認める範囲で犯罪被害者等が少年審判に在廷すれば十分であり,それ以上の規定を設ける改正要綱に強く反対するものである。
2007/12/27